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コラム 06 · DX

国家規模のDX

国じゅうの人が使うデジタルサービスでは、エンジニアリングは公共の信頼にかかわる問題になります。

Ahmad Athamneh6分で読めます

「デジタルトランスフォーメーション(DX)」は、いまのビジネスの世界で最も多用されている言葉の一つです。企業について使えば、書類棚を廃止することからビジネスモデルの再構築まで、どんなことでも指しえます。ところが、国について使うとなると、その重みはまったく異なります。政府が基本的な行政サービスを何百万人もの人が使うデジタル基盤へ移すとき、エンジニアリングの判断は公共の信頼にかかわる問題となり、信頼性は社会に対する責任になります。

この数年、国家規模のデジタルサービスが何を実現できるかを示す鮮やかな例がいくつも生まれました。とりわけ湾岸諸国では、政府が本人確認、医療、移動、行政サービスのためのデジタル基盤に大きな投資を行ってきました。こうした経験は、政府だけでなく、大規模なシステムを構築するあらゆる組織にとって学ぶべき点を含んでいます。

国家規模ならではの違い

ほとんどのデジタル製品は、利用者を選ぶことができます。スタートアップは特定の層を狙い、企業は自社の顧客にサービスを提供します。国家規模のデジタルサービスには、その余地がありません。国民と居住者、若者と高齢者、都市と地方の住民、デジタルに慣れた人とためらいのある人、障害のある人や古い端末を使っている人まで、すべての人に対応しなければなりません。

この普遍性が、設計の課題を変えます。アクセシビリティは一部の人のための機能ではなく、全体に対する要件になります。言葉のわかりやすさがきわめて重要になります。画面は、初めて利用する人が、時には焦りながら、遅い回線でも使えるものでなければなりません。

規模はエンジニアリングの課題も変えます。政策の発表、手続きの締め切り、公衆衛生上の出来事などをきっかけに、需要は突然跳ね上がることがあります。システムは平均ではなくピーク時の負荷に合わせて設計し、どこかに障害が起きても機能を絞って動き続けられるようにしておく必要があります。

最後に、扱うものの重さがガバナンスの課題を変えます。国家規模の基盤は、本人確認情報、健康状態、移動の記録など、機微なデータを扱うことが多いものです。セキュリティ事故やデータの不適切な利用が起これば、個人が被害を受けるだけでなく、デジタル行政そのものに対する国民の信頼が損なわれます。

大規模プログラムの体制

国家規模のデジタルサービスの背後には、複雑な組織体制があります。政府機関が権限と政策を持ち、プログラムの指導部が優先順位とスケジュールを調整します。そのもとで、公務員、委託先、コンサルタントなどで構成される複数の技術チームが、本人確認の連携、アプリケーション開発、インフラ、セキュリティ、データ、利用者サポートといったそれぞれの部分を構築し、運用します。

こうした環境では、一人でシステム全体をつくる人はいません。それぞれの貢献は専門化され、互いに依存しています。たとえば技術コンサルタントは、アーキテクチャについて助言したり、実装をレビューしたり、特定の構成要素を支援したり、チームが具体的な課題を解決するのを手伝ったりします。一つひとつの貢献の価値は、それが全体の中にどれだけうまく収まるかによって決まります。

この相互依存があるため、連携こそが中心的な課題になります。各構成要素の責任者を明確にすること、チーム間のインターフェースをはっきり定めること、共通の基準を持つこと、効果的に意思疎通を図ること。これらは技術力と同じくらい重要です。

国家規模の基盤から得られる教訓

大規模な公共デジタルサービスの経験からは、いくつかの教訓が浮かび上がります。

信頼性こそが製品です。利用者は公共サービスを、何よりもまず、必要なときに使えるかどうかで判断します。機能の多さよりも、可用性、速さ、正確さが重視されます。インフラ、監視、運用の質への投資は、国民の信頼という形で報われます。

最も難しいのは連携です。国家規模のサービスが単独で動くことはまずありません。本人確認の仕組み、複数の機関が管理するデータベース、外部のサービスに依存しています。複雑さの多くは、それらを安全かつ一貫して連携させるところにあります。

シンプルさは、複雑さの上に成り立っています。数回の操作で手続きが終わるすっきりした画面の裏側には、たいていデータの照合、ルールの処理、セキュリティの確認、連携の仕組みといった、膨大な作業が隠れています。目指すのは、利用者に代わって複雑さを引き受けることです。

改善には規律が必要です。公共の基盤は、政策やニーズの変化に合わせて進化しなければなりませんが、変更はすべて慎重に試験し、わかりやすく周知し、基本的なサービスを止めずに反映しなければなりません。

プライバシーとセキュリティは、最初から設計に組み込む必要があります。暗号化、アクセス管理、監査記録、データの最小化、明確な保存方針は、付け足すものではなく基礎です。

信頼は積み重なっていきます。デジタルサービスでよい経験をした人は、ほかのサービスも使うようになります。障害に直面したり、自分のデータが不適切に使われたと感じたりすれば、不信感はすぐに広がります。

変革の人間的な側面

DXは技術の課題として語られがちですが、その成否は人と組織に大きく左右されます。職員は新しい業務の進め方に慣れていく必要があります。政策は、紙の書式をそのまま画面に置き換えるのではなく、デジタルでの提供に合わせて設計し直す必要があります。デジタルのサービスを使えない人や使いたくない人のためには、支援や案内、代わりの窓口も必要です。

変革を純粋に技術の問題として扱うリーダーは、理屈の上では動くものの実際には使われにくいシステムを生みがちです。変革のマネジメント、研修、サービス設計に投資するリーダーは、実際に使われるシステムを生み出します。

民間企業への示唆

国家規模の基盤から得られる教訓は、政府の外でも通用します。大企業、医療機関、教育機関、金融プラットフォームも、多様な利用者への対応、大規模での安定した運用、既存システムとの統合、機微なデータの保護といった、似た要求に直面しています。

民間でシステムを構築する人々が公共のプログラムから学べることはいくつもあります。最も経験の少ない利用者を想定して設計すること、需要のピークに備えること、連携を最重要の課題として扱うこと、そして信頼性と信頼が技術的な性質であるだけでなく、事業上の強みでもあると認識することです。

リーダーのための六つの確認事項

大規模なプログラムを率いるリーダーは、次の六つの実践的な基準で自らの計画を点検できます。

  • 責任の所在を明確にする。すべての構成要素、インターフェース、データには、責任者がいるべきです。
  • ピークと障害を前提に設計する。負荷の急増や構成要素の故障は起こるものと考え、その両方に備えます。
  • 連携とデータの質を優先する。サービス同士をつなぐ基盤部分に投資します。
  • 利用者の実際の体験を測る。導入の節目だけでなく、手続きの完了率、エラー率、応答時間を追います。
  • 人と業務の進め方に投資する。職員を育成し、業務の流れを見直し、変化の過程で利用者を支えます。
  • 公共の利益を中心に置く。公共サービスにおいて、成功を測る最終的な基準は、人々の暮らしが便利になったかどうか、そしてその信頼に応えられたかどうかです。

信頼で測られるサービス

国家規模のDXは、技術にかかわる仕事の中でも最も要求水準の高いものの一つです。重圧の中でも安定して動くエンジニアリング、機微な情報を守るガバナンス、そして多くのチームにまたがる組織的な連携が求められます。それがうまくいけば、人々と行政のかかわり方が変わり、時間が節約され、サービスが届く範囲が広がり、公共サービスへの信頼が高まります。こうしたプログラムに携わる人にとって、そこには長く心に残る教訓があります。大規模な場面では、技術が単なる技術にとどまることはありません。それは一つの奉仕であり、その質は人々の信頼によって測られるのです。

本記事は分析と考察を目的としたコラムです。インタビューの引用や発表の告知は含みません。