技術者出身の創業者については、よく知られた見方があります。ものづくりは得意だが営業は苦手で、会社を率いるにはまずエンジニアとしての癖を捨てなければならない、というものです。一理はありますが、大切な点を見落としています。問題を分解する、前提を検証する、熱意よりも根拠を重んじる。優れたソフトウェア開発者を支えるこうした素養は、起業の妨げにはなりません。うまく広げていけば、むしろ起業の最も確かな土台の一つになります。
Ahmad Athamnehのキャリアは、この考えを確かめるうえで参考になります。情報技術の学位から始まり、開発と技術コンサルティングの年月を経て、オックスフォードでのMBA、グローバルなプラットフォームでのデジタルマーケティングを経験し、ライブ配信、展示会場、人工知能、デジタル資産にまたがる事業群へとたどり着きました。一つひとつの段階に特別なところはありません。興味深いのは、新しい段階に進むたびに、それまでの経験の意味が変わっていくことです。
ソフトウェア開発が教えてくれること
ソフトウェア開発は、ある種の誠実さを身につけさせます。コードは動くか動かないかのどちらかで、システムは負荷に耐えるか、利用者の目の前で止まるかのどちらかです。開発者は早い段階で、自信は根拠にならないこと、そしてもっともらしい設計と実際に動く製品との間にこそ、仕事の大半があることを学びます。
この分野で培われる習慣のうち、特にビジネスに生きるものが三つあります。一つ目は分解です。大きくあいまいな目標を、理解でき、解決できる小さな問題に分けていく姿勢です。その意味で、企業もまた顧客、インセンティブ、業務、技術、資本からなる一つのシステムであり、その課題は同じように粘り強い分析によって解きほぐすことができます。
二つ目は反復です。エンジニアは最初から正解にたどり着くとは考えていません。つくり、試し、観察し、改善します。この習慣を戦略に持ち込む創業者は、計画に固執しにくく、市場が別の答えを示しているときにそれに気づきやすくなります。
三つ目は、故障のしかたを重視することです。優れたエンジニアは、システムがどう動くかだけでなく、どう壊れるかを考えます。ビジネスにおいてこれは、規制、業務、評判にかかわるリスクを冷静に見る姿勢につながります。楽観的な起業のスタイルでは、しばしば欠けている視点です。
技術だけでは学べないこと
エンジニアとしての習慣が財産であるとしても、それだけで十分な教育になるわけではありません。技術の訓練では、要件はあらかじめ与えられるものとして扱われがちです。しかし起業では、要件そのものを見つけ出す必要があります。人々が本当に必要としているもの、お金を払ってもよいと思うもの、また戻ってきたくなる理由を理解しなければなりません。
ここで、エンジニアリング以外の経験が大きな意味を持ちます。たとえばデジタルマーケティングは、本質的には受け手を理解する仕事です。人々がどのようにコンテンツを見つけるのか、何が注目を集めるのか、文化や言語がどのように共感を左右するのか。システムを学んできた人にとって、それは仕様書には書かれない要素について学ぶ機会になります。
経営の教育は、さらに別の層を加えます。資本、組織設計、戦略の言葉です。MBAを取れば起業家になれるわけではありませんが、エンジニアがあまり問われることのない問いに向き合うための枠組みを与えてくれます。機会をどう評価するか、組織をどう設計するか、そしてリリースのサイクルではなく何年という時間軸で競争をどう考えるか、といった問いです。
コンサルティングという修業
純粋なエンジニアリングと会社の創業の間には、見過ごされがちな段階があります。コンサルティングです。技術コンサルタントは、システムの拡張が必要になったとき、サービスの刷新が求められるとき、厳しい目が注がれる中でプラットフォームを構築しなければならないときなど、組織にとって重要な局面に招かれます。短い期間で多くの組織を内側から見ることになり、技術的なアーキテクチャと同じくらい注意深く、組織の事情を読み取る力が身につきます。
とりわけ大規模なデジタルサービス基盤に携わる経験からは、ほかでは得がたい教訓が得られます。信頼性は単なる指標ではなく、果たすべき責任になります。多くのチームの連携が中心的な課題になります。そしてコンサルタントは、技術的に最善の答えが、必ずしも組織が採用できる答えではないことを学びます。これは、どの創業者もいずれパートナー、規制当局、大口顧客との交渉で直面することです。
創業という転機
こうした経歴を持つ人の多くは、ある時点で選択を迫られます。他者が所有するシステムをつくり、助言し続けるのか、それとも自分の事業を始めるのか。この判断は、技術力の問題であることはまれです。給与の支払い、戦略、そして誰にも判断を委ねることのできない決定の結果に対して、別の種類の責任を引き受ける覚悟があるかどうかの問題です。
2019年にAhmadがYouLiveを創業したように、ライブ配信プラットフォームを立ち上げることは、それまでの段階がどのように結びつくかをよく示しています。ライブ配信のプラットフォームは、技術的な要求が高く、文化的な配慮が欠かせず、経済的にも繊細です。リアルタイムで確実に動くエンジニアリング、視聴者とクリエイターの行動への理解、そして参加者に公正に報いるビジネスモデルが必要です。それまでのどの経験も、単独では足りません。組み合わさってはじめて、確かな土台になります。
一つの会社から事業群へ
こうしたキャリアの後半は、深さより広がりを増していくことが多いものです。展示会場の経営、医療と教育のテクノロジー事業、開発中の取引プラットフォーム。一見すると関心が散らばっているように見えるかもしれません。しかしエンジニアリングの視点で見ると、これらには共通の構造があります。いずれも、互いを見つけ、信頼し、取引する必要のある参加者を結びつけるシステムです。
この一貫性が重要なのは、それが事業を評価する方法を形づくるからです。問いは常に同じです。根本にある課題は本物か。必要な水準でシステムを構築できるか。リスクを負うのは誰で、それは公正か。いま存在しているものと、まだ計画にすぎないものを、正確に区別して伝えているか。
持ち続けたい五つの習慣
同じような道を考えている開発者やエンジニアにとって、特に大切になるのは次の点です。
- 技術者としての習慣を、弱みではなく強みとしてとらえる。分解、反復、根拠の尊重は、語りのうまさが評価されがちな市場では貴重です。ぜひ生かしてください。
- エンジニアリングが扱わない領域に、意識して触れる。マーケティング、営業、業務、コンサルティングの仕事を通じて、技術が意味を持つかどうかを左右する人と組織の要素を学ぶことができます。
- コンサルティングでの修業を大切にする。多くの組織を内側から見ることは、意思決定が実際にどう行われているかを学ぶ近道です。
- 状況を正確に伝える。創業者の信頼は、稼働しているもの、開発中のもの、まだ構想段階のものを明確に区別することで成り立ちます。
- 自分ならではの能力の組み合わせが生きる課題を選ぶ。技術者出身の創業者にとって、最も代わりのきかない立ち位置は、めったに交わらない分野の接点にあることが多いものです。
広がっていく規律
ソフトウェア開発から起業への道のりは、エンジニアリングを離れることだと言われることがあります。より正確には、エンジニアリングが広がっていくのだと言えるでしょう。コードでできたシステムから、人、インセンティブ、制度でできたシステムへ。この移行を見事に果たす創業者は、開発者としての規律を手放しません。それをより大きく、より影響の大きな課題に当てはめ、コードだけでは決して得られない市場と人への理解と組み合わせていくのです。
本記事は分析と考察を目的としたコラムです。インタビューの引用や発表の告知は含みません。
